最近お客様から「Friendlyではキー操作は使えないの?」って聞かれることが何回かありました。キーエミュレートねー。Friendly作る前はやってたけど不安定だったんですよねー。MSDNにもタイミング問題あるって書いてるし。でもFriendlyと組み合わせたらなんとかなるんじゃないか?ってことで色々考えてみました。
なお、このエントリを書くにあたりとっちゃんさんから色々教えていただきました。ありがとうございました!
結論から言うとアリ
タイミング依存の失敗はあると言われています。が、今回考えてみるとテストというコンテキストではFriendlyを使うことによってタイミングをコントロールしきれると思います。
で、コード書いてみました。もしかするとライブラリに組み込むかもしれませんが、ちょっと先になるので必要な方はコピって使ってください。DLLインジェクションやってますので定義するDLLの.Netのバージョンは対象のアプリのもの以下でお願いします。対象がネイティブアプリならバージョンは何でもOKです。
WinForms
using Codeer.Friendly; using Codeer.Friendly.Dynamic; using Codeer.Friendly.Windows; using System.Windows.Forms; namespace SendKeyEx { public static class WinFormsImplement { public static void FormsSendKeys(this WindowsAppFriend app, string keys) => app.Type<SendKeys>().SendWait(keys); public static void FormsSendKeys(this WindowsAppFriend app, string keys, Async async) { Initializer.Init(app); app.Type<SendKeys>().SendWait(keys, async); TimerMessageWaiter.Wait(app); } } }
WPF
using Codeer.Friendly; using Codeer.Friendly.Dynamic; using Codeer.Friendly.Windows; using System.Threading; using System.Threading.Tasks; using System.Windows.Threading; namespace SendKeyEx { public static class WPFImplement { public static void WPFSendKeys(this WindowsAppFriend app, string keys) { Initializer.Init(app); app.Type(typeof(WPFSendKey)).SendWait(keys); } public static void WPFSendKeys(this WindowsAppFriend app, string keys, Async async) { Initializer.Init(app); app.Type(typeof(WPFSendKey)).SendWait(keys, async); TimerMessageWaiter.Wait(app); } static void SendWait(string keys) { //キー送信 bool sent = false; Task.Factory.StartNew(() => { System.Windows.Forms.SendKeys.SendWait(keys); sent = true; }); //送信が完了するのを待つ while (!sent) Thread.Sleep(0); //キー処理 DoEvents(); } static void DoEvents() { DispatcherFrame frame = new DispatcherFrame(); Dispatcher.CurrentDispatcher.BeginInvoke(DispatcherPriority.Background, new DispatcherOperationCallback(ExitFrames), frame); Dispatcher.PushFrame(frame); } static object ExitFrames(object f) { ((DispatcherFrame)f).Continue = false; return null; } } }
Native
using Codeer.Friendly.Windows; namespace SendKeyEx { public static class NativeImplement { public static void SendKeys(this WindowsAppFriend app, string keys) { Initializer.Init(app); System.Windows.Forms.SendKeys.SendWait(keys); TimerMessageWaiter.Wait(app); } } }
共通で使うコード
using Codeer.Friendly.Windows; namespace SendKeyEx { static class Initializer { internal static void Init(WindowsAppFriend app) { var asm = typeof(Initializer).Assembly; object isInit; if (app.TryGetAppControlInfo(asm.FullName, out isInit)) return; WindowsAppExpander.LoadAssembly(app, asm); app.AddAppControlInfo(asm.FullName, true); } } }
using System.Windows.Forms; using Codeer.Friendly.Windows; using Codeer.Friendly.Dynamic; namespace SendKeyEx { class TimerMessageWaiter { public bool Arrived { get; set; } public TimerMessageWaiter() { var timer = new Timer { Interval = 1 }; timer.Tick += (_, __) => { timer.Stop(); Arrived = true; }; timer.Start(); } internal static void Wait(WindowsAppFriend app) { var waiter = app.Type<TimerMessageWaiter>()(); while (!(bool)waiter.Arrived) System.Threading.Thread.Sleep(0); } } }
そもそものSendKeysの動作
この辺参考に
About Messages and Message Queues (Windows)
GetMessage 関数
Reference Source
SendInput実行からUIスレッドで実行するまでの流れはこんな感じです。
- SendInput関数実行によりキーボードストリームに入力データが入る(MSDN)
- 割り込み処理により(※注)アクティブなUIスレッドのシステムメッセージキューに入力メッセージを配置(MSDN)
- UIスレッドがそれを取り出し、変換しながら、さらに自分のスレッドにメッセージをポストしながら実行
※注の部分に関しては正規のドキュメントは未発見ですが、以下の理由から割り込みで実行されると考えています。なぜそれにこだわっているかというと、ここでやっている同期の取り方はSendKeysを呼び終わった段階でアクティブなUIスレッドのシステムメッセージキューに入力メッセージが届いているという考えに依存してるからです。
- もともとの処理がドライバで行われている。キードライバの場合はIRQ割り込み。
- とっちゃん談
- SendKeysに大量に文字列を渡したときに重い(単にバッファに入れるだけならもっと早いはず)
- そうでなければ.NetのSendKeysの実装が説明つかない(どう見てもこの考えに依存した実装になっている)
SendKeysが失敗する理由
これを踏まえて、SendKeysが目的のキー処理を失敗する理由を考えます
①キーボードの種類や言語によって失敗する可能性がある
②対象のアプリがアクティブでない
③対象のコントロールにフォーカスが当たっていない
④UIスレッドのシステムキューのバッファ、およびアプリ部分の何かのバッファが溢れた
⑤野良メッセージループが回っている
加えて、テストという観点で考えると
⑥同期がとれていないので結果取得のタイミングで処理が終わっていない可能性がある
①はまあ仕方がない。制限事項として受け入れるしかないですね。Friendlyなどの別の操作ライブラリと合わせて使うことにより、その制限の範囲内でも十分な成果は上がられると思います。(しかもこれは失敗するときは絶対失敗するしタイミング依存の失敗にはならない)②③はFriendlyを使うと容易に解決できます。④⑤⑥ですがこれは同期が取れれば全部解決できそうです。⑤に関しては最後に別途解説します。④に関しては同期がとれればあふれるほどは送信しないですよね?同期が取れてもあふれるならそれはタイミング依存の失敗ではなく、送信データが悪いということで毎回失敗するはずです。
同期をとる
SendKeysにはSendWaitというものがあります。しかし、Vista以降ではUACの制限があり別プロセスがキーを受け取る場合、その終了を待つことができないようになっています。
SendKeys.SendWait メソッド (String) (System.Windows.Forms)
以前はジャーナルフックという手法を使っていて、別プロセスでもキーが送信されたことを確認できていたようです。コードを見ると努力の跡が見られます。
Reference Source
結局現在では、このSendWaitで待てるのはWinFormsでアクティブなUIスレッドで実行した場合のみです。今回はFriendlyを使って同期をとるコードを考えてみました。
WinForms
相手プロセスでSendKeysを実行するだけでOKです。処理が終わるまで待ってくれます。Asyncバージョンには最後に怪しい処理が入っています。Nativeの解説のところで解説します。
WPF
SendKeys.SendWait メソッド (String) (System.Windows.Forms)の待ち処理を見ると単にDoEvents()しているだけですね。これをWPF用に取り換えてやります。それで自分のスレッドへの投げ込みが上手く行かないので投げ込みは別スレッドからやってやります。WPFではSendKeysではなくInputManagerを使うのが良いとも言われてますのでそれで作ってもよいですが、SendKeysの方が圧倒的に使い勝手が良いので私はこれで実装しました。
で、そもそもの問題としてSendInput送って、その後メッセージ処理の前にUIスレッドのキューにそれが入っていることが保証されているの?という話ですが、そこは※注で書いている話です。オリジナルのSendKeysがそうやってるんだから多分この考えはあっていると思います。正式なドキュメント見つけたい・・・。
Native
今回作ったネイティブ版の実装は実は上の二つ(WinForm版、WPF版)とは待ちが終了するタイミングが異なります。上の二つが処理が完全に終わる(キーイベントを受けて実行する関数を抜ける)のを待ち切るのに対して、こちらはTimerメッセージが通るくらいメッセージ処理に余裕ができれば抜けます。具体例としてショートカットキーを実行した後モーダルダイアログが出る場合、WinForms版とWPF版はダイアログが閉じるまで固まっています。そのためAsync版があります。対してネイティブ版はダイアログが出てメッセージループが回り始めれば抜けます。とは言えどちらも入力キーの処理が残っていれば制御は返しませんし、ダイアログが出たら抜けてくれるならこっちの方が使い勝手いいんじゃないの?って思うかもしれません。多くの場合はその通りでこれで問題なく処理を進めることができます。後述しますが、欠点はキーイベントから呼び出された関数の中で独自ループを回している場合に同期が取りづらくなるというものです。
それでTimerメッセージ待ちってなんやねん!ということなんですが根拠はこちらのドキュメントです。
GetMessage 関数
Windowsのメッセージには処理される優先順位があります。
特にSendMessageは強力でGetMessageせずともSendMessageしている最中とか、いくつかのWin32APIを呼び出している最中に割り込んできたりします。ポストメッセージが入力よりもプライオリティが高いのですねー。入力メッセージを受けて自分に対してポストメッセージするからかな?それで、Timerメッセージは優先順位が一番低くなっています。つまり入力メッセージや、それから送られたポストメッセージがキューに残っているとメッセージが処理されません。このメッセージが到着した(タイマのTickが飛んできた)ということはその前に送ったキー処理はすべて終わっているといえます。それでWPFとWinFormsの非同期版にこれが入っている理由は、実はFriendlyの処理が内部的にSendMessageとPostMessageを使っているからです。ともに入力メッセージの処理よりプライオリティが高いんですね。普通にFriendlyの処理ばかりを使っていると非同期を使っても、後の処理が追い越すことはないのですが(もちろん前の処理中にダイアログなど表示されると別です)今回は入力メッセージが絡むので嫌な感じのところで前の処理に割り込むことがあります。それを防ぐためにここでも入力メッセージの処理の終了待ちをいれています。
⑤野良メッセージループが回って失敗する
思い返してみれば、タイミング依存の失敗のほとんどはこれじゃないかなー。簡単な例を書くと、ALT+Aでテキストボックスがあるダイアログを表示するアプリがあるとします。(入力結果はラベルに反映)
public partial class MainForm : Form { public MainForm() { InitializeComponent(); } void ButtonTextDialogClick(object sender, EventArgs e) { using (var dlg = new TextForm()) { dlg.ShowDialog(); _label.Text = _label.Text + dlg.InputText; } } } public partial class TextForm : Form { public string InputText => _textBox.Text; public TextForm() { InitializeComponent(); } protected override void OnClosing(CancelEventArgs e) { base.OnClosing(e); } }
これにキーメッセージを送ります。
for (int i = 0; i < 2; i++) { SendKeys.SendWait("%a"); SendKeys.SendWait("abc"); SendKeys.SendWait("{TAB}"); SendKeys.SendWait("{ENTER}"); }
これは上手く行きます。ダイアログ起動→テキスト入力を二回繰り返してもキーの取りこぼしは発生しません。
しかし、以下のようにDoEventsを入れると途端に動作しなくなります。両方入れる必要はなく、どちらかでも失敗します。
public partial class TextForm : Form { public string InputText => _textBox.Text; public TextForm() { InitializeComponent(); Application.DoEvents(); } protected override void OnClosing(CancelEventArgs e) { base.OnClosing(e); Application.DoEvents(); } }
このDoEventsで処理されると、どちらも期待のコントロールがまだ生成されてなかったり、Disable状態になってたりでキーが無視されてしまいます。
で、これは場合によればうまく行くこともあります。そのためSleepとかでなんちゃって対応される場合があり状況が悪化したりします。
これは極端な例ですが、DoEvents的メッセージ処理呼んでいる箇所はちょっと大きめのアプリならそれなりにありますよね。ましてやネイティブアプリなんてやりたい放題だし、WPFでもDispatcherFrameを使ったイベント処理もやるときはあるでしょう。(直接書いたつもりはなくても外部のGUIライブラリ使ったら内部的に使われてたとか)こういうコードは人間が操作する限りには問題は発生しません。むしろ体感をよくするために仕込まれたりします。
WinFormsとWPFのものはこれに対応できている
Friendlyは同期呼び出しなので、例えばイベント内でメッセージループを勝手に回したとしても、そのイベントが終わるまで待つので影響を受けません。モーダルダイアログを表示するときのみ非同期にしますが元々の処理の終了を待つことができるのとモーダルダイアログ起動待ちができるのとで野良メッセージループにハマらないように実装できます。もともとFriendlyの設計は、この野良メッセージループの対応を考えたものになっています(昔苦労したから
こんな感じで書きます。
using (var app = new WindowsAppFriend(process)) { var main = WindowControl.FromZTop(app); for (int i = 0; i < 2; i++) { var a = new Async(); SendKeys.WPFSendKeys("%a", a); main.WaitForNextModal(); SendKeys.WPFSendKeys("abc"); SendKeys.WPFSendKeys("{TAB}"); SendKeys.WPFSendKeys("{ENTER}"); a.WaitForCompletion(); } }
同期なのに非同期にするんかい!なのですが、Friendlyではそういうものですw。
main.WaitForNextModal();で最初の野良ループはスキップできます。
最後の野良ループはa.WaitForCompletion();でスキップできます。ALT+Aで実行された関数の終了を完全に待つわけです。
ネイティブのSendKeysはここが弱い
今回のネイティブの実装ではこの問題は解決できていません。モーダルダイアログや野良ループがあったら待ち合わせは終了し、かつその関数が終わったことを確認するすべはありません。まあ、そこまでの同期は取れているので(キー処理が終わったことまでは確認できるので)アプリの設計をよく確認して他の手段で野良ループをよけるしかないですね。それにさんざん脅しましたが、全部が全部野良ループ回しているわけではないし、全体からするとやっぱり少数です。(どっちやねん
using (var app = new WindowsAppFriend(process)) { var main = WindowControl.FromZTop(app); for (int i = 0; i < 2; i++) { SendKeys.SendKeys("%a"); var dlg = main.WaitForNextModal(); SendKeys.SendKeys("abc"); SendKeys.SendKeys("{TAB}"); SendKeys.SendKeys("{ENTER}"); //Enterの入力までは同期がとれている。 //でもALT+Aが完全に終わったかはわからない //この場合だとモーダルダイアログの破棄を待つと同等のことができる //しかし、破棄後に野良ループを回すようなコードではそれを回避できない //別途そのアプリの特性を活かした待ち合わせを考える必要がある dlg.WaitForDestroy(); } }
実用可能ですが
より正確な操作手段があるならそちらを優先してつかうのが良いでしょう。あえてキーエミュレートをしたい場合や他に手段がない場合などにご利用ください。